閃光のように・・・ ≪中篇≫AFRO IZM ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~≪中篇≫~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「いやぁ~、今回はいいとこなかったな、リーダー」 「ま、運がなかっただけだって、次で活躍しようぜ、リーダー?」 「自らを犠牲に仲間を助ける、さすがリーダーだな」 「・・・、ぐすん」 桜火、シュウ、カイのフォローも、傷ついたリョーには効果が無かった。 「この崖の下に見えるはずなんだけどな・・・」 そう言って地図を見ていたカイは、木の生い茂る崖から身を乗り出し、下の景色を見た。 「・・・・・、マジかよ」 「どうした?カップルが野外でイチャついてやがんのか?なんなら双眼鏡がここに・・・」 と双眼鏡で覗いた桜火は絶句――。 「こいつはひでぇ・・・」 桜火が双眼鏡で見た光景は、見るも無残な廃墟となった村。 家は崩れ、村のほとんどの場所が木片でゴチャゴチャになっている。 「とにかく行ってみよう!」 そう言ってカイは崖を滑り降りる、桜火もすぐに続く。 「ちょ、この魂抜けかけのリョーを置いてか!?」 シュウが呼び止めるが、すでに中間ほどまで二人は滑っていた。 「どーせ俺は一番狩りが下手ですよぉ~~っと・・・、ぐすん」 「しゃーないな~~、くそ、なんで俺が・・・」 シュウはジュードーで鍛えた力で、リョーを担ぎ、崖を滑り降りてった。 「近くで見るとさらにひでぇな・・・」 桜火は村の入り口で立ち止まり、全体を見渡しながら呟く。 「焼かれた形跡はないから、野党じゃないみたいだな・・・、災害か?」 カイは焼かれた形跡が無い、かつては家の一部であっただろう木片を手に取り答える。 「お~~い!なにがあったん・・・・・ひでぇ」 後から追ってきたシュウは、目の前に広がる光景を見て、思いのままの言葉を吐く。 「焼かれた形跡はないから、野党jy・・・」 「それはさっき俺が言った」 リョーが急にシャキっとして状況を判断するが、カイと同じ事を言ったために、本人によってかき消された。 「誰か生き残りがいるかもしれねぇから手分けして探そう、カイ、壊れてない家の中を調べてくれ!」 「桜火は周辺の調査だろ・・・?楽なほう選んだな?」 シュウがツッコむが、すでに桜火は村の周りを調査しに向かっていた。 「じゃ、シュウとリョーは他に何か変なモンがないか調べてくれ、この壊れ方・・・ちょっとおかしい気がする」 カイはそう言って村の奥・・・、一番大きい建物に向かって行く。 「はぁ~~、こういうのって、先に言ったモン勝ちだよな、リョー・・・ってリョー!!」 「ど~~~せ俺は、二番煎じですよ~~~~」 ・・・・・、明らかにいじけていた。 『ん~~、周辺は何もねぇな、しいて言えばランポスが三頭・・・、んだと!?』 桜火はすでに村の周りを三分の二ほど周り、あと少しで終わりのところで隠れていたランポスを見つける。 「ギャァ!ギャァ!」 ランポスは自分達が見つかったのがバレると、一気に桜火の眼前に跳ぶ。 ランポスは鳥竜種で、翼こそないものの、発達した脚で驚くほどの跳躍をし、その勢いで獲物を仕留める。 青い鱗が目印で、常に群れで行動し、一匹が獲物の注意を引き付け、 他の何匹かが一気に獲物に襲いいかかるなど、チームワークを得意とした狩りをする。 その群れのボスは一際体格が大きく、頭にオレンジ色のトサカ、長く鋭い爪を持ち、一般的にはドスランポスと呼ばれる。 「あ~~ん、たった三匹で俺と戦おうってのかよ・・・?」 少しニヤけた桜火は、腰に差している二本の刀のうち、狐火を抜く――が。 「ギャァ!ギャァ!ギャァ!」 『・・・、ちょっと鳴きすぎだよな』 そう思った瞬間、三匹のランポスの後ろからさらに二匹のランポスが現れた。 さらに、五匹の上をいとも簡単に跳び越し、一気に桜火の目の前に着地したのは、群れのボス、ドスランポスだった。 『・・・・、よし逃げよう』 どんな戦闘でも“逃走”という行為は基本的に敗北の選択で、逃げた者に勝利をもたらすことは無いに等しい。 しかし“逃走する事で見える勝機”もある。 逃走したように見せかけ、敵に自分を追わせる、追いかけさせたところで仲間の元へ誘導する。 逃走し、振り切った場合、隠れて敵の背後を奪う。 このように、逃走をつかった作戦もあるにはあるのだが・・・、桜火の“それ”は吉とでるか、はたまた凶か。 桜火は狐火で地面を叩き、数瞬燃え上がる火炎でドスランポスが怯んだスキに逃げ出した―――。 「お、なんだこりゃ?」 落ち込んでいるリョーを後ろに、シュウが何かを見つけたようだ。 『・・・、鉄サビ?でもなんか甲殻っぽいな』 ―ズドドドドドド・・・・― 大地の揺れる音、複数の鳴き声が入り乱れる音、その中に聞き覚えのある声。 「うお~~~い、ちょっと手ぇ貸してくれ~~!!」 そこには、五匹のランポスと、一匹のドスランポスから必死に逃げている桜火の姿があった。 「ちょ、何してんのさーー!!」 「周回してたらランポスが・・・ってそんな事より助けてくれぇ!」 「助けろったって・・・、あぁ~~~~!!」 急な事態で何もできなかったシュウは、桜火と肩を並べて逃げる。 「シュウ、何やってんだ!」 「そんな急に助けろったって、無理に決まってるでしょーー!!」 「とにかくヤベェ・・・ってリョーは!?」 その時―――。 ―ドガッ!!― 大きな木片が、ドスランポスの目前に落ちてくる。 「ギャァ!?」 急な事態に驚き、急停止するドスランポス。 「ふっふふふふふ、ようやくやってきたぜ、俺の時代が・・・」 そこに出てきたのは自信を取り戻した感じのリョー、いつの間にか桜火とシュウの逃げていた方向に先回りしていた。 「あぁ・・・、後光が差してるよ、リョー」 「桜火、そーとう切羽詰ってたんだな・・・」 シュウが桜火にツッコむ。 「おい!」 リョーはドスランポスに向かって指を差した。 「俺はこいつらのリーダーだ、お前もランポス達のボスだろ?」 「ギャ?」 「リーダーとボス、どっちが強ぇか、どっちが将の器か、そろそろ決着つけようぜ・・・」 「なんかワケわかんないけど頼んだぜリョー!」 「雑魚は任せな!」 桜火、シュウはそう言って二手に分かれると、ドスランポスを通り越し、ランポス達に斬りかかる。 「ギャァ!?」 いきなり反撃してきた二人のハンターに子分のランポスをやられ、リョーから視線をそらすドスランポス。 「おいおい・・・、お前の相手は俺だぜ?」 そう言ってリョーは背中の大剣をつかみ、走り出す。 「ギャ・・・」 ドスランポスがリョーに気付いて振り向いた刹那・・・。 ―ドシャッ― リョーの大剣は、抜刀の勢いと、その自重、さらに衝撃時の水圧の刃でドスランポスの首を一太刀で斬り落とした。 「お、おぉぉぉぉ・・・・」 桜火、シュウはそれを見て、拍手。 「やっと、やっとリーダーらしくなってきたぜ・・・」 いいところを見せれて、やっと自身を取り戻したリョーは、ハッハッハと笑いながら奥の一際大きな家へ向かって行った。 『ここは無事なんだな・・・』 カイは大きな家の中に入ると、家の中を一通り探索した後、ふと何かの紙切れを見つけた。 その紙にはこう書かれてあった。 “もしこれを見つけてくれて、ミナガルデへ行く予定のある行商さん、もしくはハンターさん この手紙をトニーという男の人に届けてもらえないでしょうか? トニーの特徴は、しゃくれたアゴに、ゲリョスヘヤァ~の男のハンターです ≪トニーへ≫ もう知っているかもしれないけど、この村はモンスターに襲われて、ボロボロになってしまいました。 でも、村の人達は全員無事で、ついさっきまであんな事があったのに、みんな笑顔と活気を取り戻しています。 この村で狩りをしていたハンターのレンジさんという人が、なんとかモンスターを追い返してくれたの。 村の人たちは村長の提案で、街に行く者、新たに住む場所を探す者で別れました。 ところで、先ほどお話したレンジさんは、モンスターとの戦闘で大きな傷を負ってしまいました。 私が逃げ遅れて、もう少しで殺されてしまいそうなところを、レンジさんが助けてくれたの。 私、命の恩人のレンジさんに寄り添って生きていこうと思ってます。 トニーも早く結婚しなさいね。 この村きっての美人、ナツコより” 『これって、依頼してた妹の手紙だよな・・・、にしてもモンスターは追い返して、そのままかよ』 「うお~~~~い!!」 カイが手紙を見終わって一息ついたところで、桜火の声が聞こえた。 「お~いカイ~、大変だったんだぞ~~、ランポスがすんげー現れてさ・・・」 「ふっ、どっちが将の器が大きいか、証明してきたやったぜ?」 「なんだそりゃ?そんな事よりこれ見ろよ」 そう言ってカイはシュウに手紙を見せる。 その後ろでは、“う、時雨といいカイといい、なんでこう冷たいんだよ・・・”と落ち込んでいるリョーの姿があった。 手紙を読み終えて、シュウはカイに手紙を渡す。 「これ、依頼されてた妹の手紙だよね、これ持って帰ればクエスト達成になるんじゃね?」 「あぁ、このクエストはこれで終わると思うが・・・、一つ気になる事がある」 カイはそう言いながら手紙をポーチにしまう。 「この村を壊滅に追いやったのはモンスターだろ?で、このレンジは仕留めきれなかったと」 「みてぇだな、でもこれがモンスターの仕業だとしても、燃えた様子がねぇぞ?」 桜火は“カイが何を言いたいかわからない・・・”という感じで問い詰める。 「炎を吐かなくても、建物を壊すことができる力をもったモンスターはいるだろ?それに・・・」 そう言ってカイは座り込む。 「単独で狩りをしていたレンジは腕前はあるはずだ、そんなレンジでも大怪我を負わされ、追い返すことしかできなかった」 「まさか・・・、古龍かよ」 リョーが急に真面目になって言う。 「たぶんな・・・、それよりシュウとリョーはなんか収穫あったのか?」 「あぁ、そういえばこんなもん拾ったぞ」 そう言ってシュウは先ほど拾った錆びた物体をカイに渡す。 「なんかさぁ、ただの錆びなんだけど、ちょっと甲殻っぽいんだよね、これ」 「こいつは・・・、おい、ちょっとマズイ事になったみたいだぞ・・・」 カイはさっと立ち上がり、家から出ようとする。 「たぶん、この村を襲ったのはクシャルダオラだ、それも脱皮直前の凶暴化したな・・・」 カイは“急ぐぞ・・・、走れば夜には街に着く”と呟いて走り出した。 その後ろに桜火、シュウが続く。 「俺より将の器が大きいかもしれねぇ・・・」 リョーはカイの背中を見ながら呟く。 「何やってんだリョー!置いてくぞ!」 カイは振り向き、しかしその足を止めずにリョーを呼ぶ―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「フム・・・、えらい事になったのぅ」 ここはミナガルデの街門。 ミナガルデの出入り口で、そこには常に馬車や行商、街を守るガーディアンであふれている。 そこには“古龍監察局”と呼ばれる施設があり、古龍の習性を研究する人達が働く場所がある。 この施設では、最新鋭の技術で開発した“熱気球”という乗り物で空を飛び、 街の近くに古龍がいないか、もし古龍がいた場合はその場所を監察局に伝令し、 監察局はハンターズギルドに討伐依頼を出し、いち早く危険な古龍を撃退するようなシステムをとっている。 伝達方法は“伝書鳩”を使い、手紙には場所、種族を書き、その情報は変更があった場合のみ随時更新される。 ここ、古龍監察局ミナガルデ支部に、一匹の伝書鳩が戻ってきた。 その手紙の内容は、こう書かれてあった。 “≪緊急事態≫ ミナガルデから約三km南西の方角で、手負いのテオ・テスカトルを発見。 飛行すらしてないものの、街を発見するのは時間の問題の恐れあり。 至急警戒警報を発令し、迎撃体制を整えよ。” 「エーコはギルドに依頼を、ユリはガーディアンに通報、ワシは大笛を吹く!」 そう指示を飛ばしたのは監察局の局長、通称“ヒゲじぃ”と呼ばれるゴルドーだった。 ≪ぶ~~~ぉ~~、ぶぉぉ~~~~、ぶ、ぶぉぉ~~~、ぶ、ぶほぉぉ~・・・≫ 「はぁ、はぁ、現役の頃と違って息が続かんワイ・・・」 街に響き渡る大きな笛の音、古龍警戒警報が発令された合図だ。 この音が聞こえたら、それは古龍接近の合図、すぐさま迎撃体制をとらなくてはならない。 一般人は自宅、もしくは近くの大きな施設の中、ガーディアンは避難誘導、迎撃準備を行なう。 ハンター達は酒場に集合し、今回の迎撃対象の種族とランクを発表され、対象を狩猟できる腕を持つ者だけが参加できる。 「間に合うといいんだがのぅ・・・」 ゴルドーは自慢の長いヒゲをさすりながら、陽が落ち暗くなりかけた空を見上げた―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ここはミナガルデの商業区、主にハンターを対象とした店が並び、 大衆酒場、アリーナ、武具工房など、ハンターの施設が建設されている。 これらの施設は、ギルドに所属するハンターのみ格安でサービスを受けることができ、 毎日ハンター達の買い物や食事、娯楽などで賑わっている・・・が、警報が発令された今は、とてもそんな雰囲気ではなかった。 逃げ惑う人達で溢れかえった広場の中心にある噴水。 ここはさらに人で溢れており、我先にと逃げる人達は隣の人を押し、押されの大混乱だった。 「キャッ!?」 逃げる人にぶつかった女性は、突き飛ばされてバランスを崩し、噴水に入ってしまった。 「あ~もう、ビショビショ・・・」 大混乱の広場・・・、そこにモンスターの咆哮が響く。 ―ギャォォォォォン― その咆哮は、ざわついていた声を一瞬でかき消し、見る者を凍りつかせ、恐怖という感情を与える“龍”の咆哮だった。 「あ、ぁ・・・・」 彼女のいる噴水の上に、その龍は舞い降りた。 頭にはねじれた角が一本、もう一本は折れている。 大きな翼に、前足、後ろ足が計四本、たてがみの色は赤紫で、尻尾は太く、先にはフサフサした毛が生えている。 炎王龍テオ・テスカトル、獄炎の王者のその姿だった―――。 テオ・テスカトルはもう一度大きな咆哮を上げ、噴水の上からミナガルデ商業区の地に降臨した。 「う、うわぁ~~~~!!」 混乱する人々、恐怖におののきながらも、 “もしかしたら・・・”という一握の希望を持ち、住民の盾になるガーディアン達。 「はやく近くの建物へ!近接隊、防御しながら進め!住民から遠ざけ、壁に追い詰めるんだ!」 ガーディアンに指示が飛ぶ・・・・が。 ―ゴォォォォォォ― 突然すぎるテオ・テスカトルの火炎放射。 いや、予備動作はあったのかもしれないが、その長さは飛竜のそれよりもはるかに短かった。 「うぉぉぉぉぉ・・・!?」 ランスの大きな盾であまり視界がよくなかったガーディアンの目の前に、突然の灼熱の炎。 そして、それが炎だと気付いてから感じる熱さ。 「ちぃ、マズイ、いったん退け!退くん・・・」 次の指示が飛ぶまでに、テオ・テスカトルは次の行動を起こしていた。 細い丸太のような前足で防御なぞ関係ござらんとばかりに叩きつける。 大きな盾で防御していたのにもかかわらず、吹っ飛ばされてしまった。 それもそのはず、彼らはハンターではない、街を警備するガーディアンだ。 その警備の対象は、喧嘩の仲裁や重い荷物を持つなど、警戒などではなくいわゆる街のなんでも屋さんだ。 当然体を鍛えているわけでもなく、モンスターの攻撃などで簡単に吹き飛ばされてしまう、相手が龍ならなおさら・・・。 ―ドシャ、ガシャーーーン― 飛ばされたガーディアンは一人、また一人と行商人の荷物、露店などに突っ込む。 「キャァァー!」 その恐ろしさに耐え切れず、つい悲鳴を上げてしまった彼女は当然、テオ・テスカトルの標的にされてしまう。 「グアァァァ!」 目の前のガーディアンを飛び越え、一気に噴水の前に踊り出るテオ・テスカトル。 小さく喉を鳴らし、彼女を睨みつける。 彼女はテオ・テスカトルと目が合ってしまい、体が硬直する。 テオ・テスカトルはその鋭い牙で噛み付く―――その時。 ―ガシャァァァン― 金属と硬い何かがぶつかり、擦れる音。 彼女の目の前には、青い甲冑を身に着けた・・・ハンターだろうか? しかしその手にはハンターが見につけている武器とは思えない、おかしな武器を持っていた。 片手で握れるような棒に、両端に刃がついた・・・、槍だろうか? 彼は青い仮面でこちらを見た・・・と思った矢先。 「ボサっとしてねぇで早く行け!」 彼女は一瞬何が起こったのかわからなかったが、すぐに状況を理解し、小さくうなずき酒場へ逃げ出す。 「グワァ、ガァァァァ」 テオ・テスカトルは獲物に逃げられ、興奮して追いかけようとする。 が、テオ・テスカトルの口を押さえつけていた棒が回転する・・・。 ―ズシャッ― テオ・テスカトルの頬が切り裂かれる。 「グルルルルル」 テオ・テスカトルは、一瞬その衝撃にたじろいだが、すぐに標的を時雨に変える。 牙をむき出しにし、一気に噛みつこうとする。 ―愚かなハンターよ、下等な生き物の亡骸でいくらその身を固めようが無駄な努力、堅牢な我の牙で噛み付き、引き裂いてくれよう― そう言っているような小さな咆哮を上げ、時雨の肩に向けてその口を開く。 が、その牙は時雨に触れる事はなく、口を閉じた時にはすでに時雨はその場にいなかった。 時雨はテオ・テスカトルの斜め後方に回り込み、小さく溜め息をつく。 「はぁ、まさか初めての古龍との闘いがこんな状況とはな・・・」 時雨はその両刃槍を肩に担ぎ、突撃する体制を整える。 テオ・テスカトルがこちらを振り向いた瞬間―――彼の勢いの付いた斬撃がテオ・テスカトルの頬を斬りつける。 『!?』 斬りつけられ、その衝撃で一瞬たじろぐテオ・テスカトル。 そのテオ・テスカトルの顔面を蹴り、時雨は後方に飛び、テオ・テスカトルの顔を見て驚愕の表情を浮かべる。 『斬った傷がもう再生している・・・?』 一撃目の斬撃でできた傷がもう止血され、傷口がふさぎかかっていた。 『これが古龍の血の力か・・・』 古龍は、その存在自体が珍しく、あまり戦う機会は少ない。 しかし、その強さは間違いなく生態系の頂点に君臨し、今の今まで生き延びてきた。 古龍は他の生物と比べれば、寿命が極端に長い。 そのため、彼らの繁殖期は他のモンスターに比べて短く、あまり個体数が多くない。 彼らの生命力の秘密は、その体に流れる特別な血――古龍の血に隠されていると、時の学者は説いた。 古龍の血は、回復力に優れ、軽い傷なら即座に止血し、ダメージを最小限にする作用を持っている。 それを現代の治療に取り入れ、最近はハンターの殉職も少なくなってきた。 しかし、それでも彼らを仕留めるのは非常に困難で、熟練や凄腕ハンターといえど命を落としたりすることも少なくない。 時雨は、今、相手の強大さに少しばかり武者震いした。 「グゥァァァァァァァ!!」 時雨の頭に一瞬、最悪の事態がよぎったその時。 もう一つ、今対峙している古龍とは明らかに違う声色のモンスターの咆哮が聞こえた。 その大きな翼で広大な空を駆け巡り、その速さはあの火竜をも凌駕する。 炎こそ吐かないものの、そのブレスは見えにくく、当たってしまえば標的を上空に吹き飛ばす。 その外見、攻撃方法、習性からついた二つ名は―風翔龍―。 鋼のような堅牢な甲殻を持ち、凶悪な面構え、翔ぶことに長けたシャープな体つき。 風翔龍クシャルダオラ、風を従える龍のその姿だった―――。 『まさか、二大古龍が同時に顔を見せるとはな・・・』 ―グルルルルル― ―コォォォォ― “風翔龍”と“炎王龍”、二大古龍とも呼ばれ、恐れられている二匹の古龍は睨み合っていた。 たった今自分を傷つけた人間の存在などもう頭から消え、 自分の視界に入るもう一つの強大な存在を見つめるテオ・テスカトル。 鋼の甲殻が錆び、脱皮期を迎えて、 広く、有害な敵がいない場所を求めて大空を飛んでいたクシャルダオラは、 大勢の下等生物はいるが、それらを排除すれば安全と思われる場所を見つけた。 しかし降りた場所に存在した一匹の、しかし強大な炎国の王が、それを邪魔しようとしている。 二匹とも食物連鎖では間違いなく頂点に君臨する“絶対”の存在――。 その“絶対”がゆえに、自分の視界に入るもう一つの強大な存在を許す事はできなかった。 『・・・ちょっとマズいんじゃないか?』 時雨は自分の置かれた状況を理解するのに時間がかかった。 古龍の強さの秘密を間近で感じとり、気持ちで圧倒された直後に起きた予想外の事態。 “二匹を相手にどうやって闘う・・・?” と数瞬考えたが、目の前のテオ・テスカトルは既に自分を見ておらず、 後ろを向けばクシャルダオラも自分よりテオ・テスカトルを確実に意識している。 二大古龍とも言われる二匹に挟まれ、さらに二匹は今にも殺し合いを始めようと小さく吠えあっている。 『これが“前門の狼、後門の虎”ってやつか』 このどうしようもない状況に、彼はそんな事を考えてしまった。 二大古龍に挟まれても物怖じしないのは、 常に一人で狩りをし、時には多勢に囲まれる事もあったが、そんな最悪な状況でも突破してきた時雨だからこそだった。 しかし、今回はそれが仇となってしまった。 始まった最悪で最凶の闘いに、考えごとで判断が遅れた時雨は、その場から退避する事ができなかった。 「グガァッッッ!!」 「グルルルルッ!!」 二匹はお互い同時に走りだした。 “この自分と同じくらい強大な相手に対し、最も効果的な一撃は、一番信頼できる己の堅い顎だ” 野生の本能が悟らせたのか、二匹ともお互いに噛みつこうとしている。 二匹に間近で挟まれた時雨は後悔した。 “こんな強大な存在二匹を相手に闘おうとしてたなんて・・・愚かだった”と。 「ガァッッー!」 「グァッッー!」 二匹は短く雄叫びを上げ、今まさに相手の喉元めがけて噛みつこうとする。 その両者に挟まれた時雨は、完全に攻撃の延長線上に立っていた。 『こんな終わり方も悪くはないな・・・舞、今行くぞ』 空を仰ぐ時雨は、持っていた両刃槍を手放し、無意識に瞼(マブタ)を閉じてしまった。 時間にしてみれば数瞬だが、時雨にとってはとても長く感じた事だろう。 二匹の首が交差しようとしたその刹那――。 『・・・・?』 想像していた痛みや衝撃はなく、右の頬がほんのり熱くなったのを感じただけだった。 「な~に諦めてんだ?」 目の前に見えたのは、何かとつっかかってくる面倒くさいヤツ。 自分が話せるのは仕事を依頼するベッキーくらいで、いつも一人だった。 それなのに、いつからか何でもない事でも自分に絡んでくるヤツ。 こいつと関わる事柄全てにおいて、無性に負けたくなくなる。 唯一自分がライバルだと認めた存在。 そこに見えたのは、桜火のヒゲ面だった。 「お前・・・なにし」 「話しかけんな!気が散ったら飲み込まれちまう!」 声を張り上げる桜火の震える腕をよく見てみると、 左手に陰炎、右手に狐火を持ち、両刀の先端は二匹の古龍の頬を貫いていた。 「早く手伝え!片腕でいつまでも支えられるワケねぇだろ!」 瞬時に状況を判断した時雨は、桜火の刀を持つ。 桜火が二匹もの古龍の猛撃を止められたのは、 二匹がその身を弾丸に変えた突進ではなく、自身が一番信頼した攻撃である噛み付きを選択したから。 さらに、いきなりの頬への衝撃と痛みで何が起こったかわからず、力の流れを止めてしまったからでもある。 しかし、自分の体格より何倍も大きい龍の力にいつまでも耐えられるわけではない。 ようやく状況を理解した二匹が力を流すのを再開し、桜火と時雨の二人の力でも徐々に押されはじめる。 「おい時雨、狐火を抜き取れ、俺は陰炎を抜くからよ」 「・・・誰に向かって口きいてんだよ」 「か~、お前ってヤツは素直じゃないのな」 そう言って桜火は刀を両手に持つのをやめ、陰炎の柄を握る。 時雨も桜火が狐火を離した瞬間に、陰炎から手を離し、狐火の柄を握る。 ―ザシュッッ― 最初に刀を抜き取ったのは時雨、クシャルダオラの顔面を数瞬、炎が包む。 「グワァオ!?」 クシャルダオラはその熱に驚き、首を横に振る。 その間に時雨はその場から一歩、二歩と距離をとった。 時雨は桜火を探す・・・が、桜火はまだテオ・テスカトルから離れていなかった。 「うぉぉ、抜けねぇ!?」 陰炎の特徴である鋸状の刃が硬いテオ・テスカトルの鱗に逆らい、 さらにテオ・テスカトルも刀が抜き取られると同時に削られる痛みで首を勢いよく左右に振り、簡単に抜くことができなかった。 「グルゥゥゥ、ガァァッッ!!」 テオ・テスカトルは我慢できずに、頬に突き刺さっている何かを無理矢理抜き取ろうとする桜火を払いのけた。 「うぉっ!」 桜火は吹っ飛ばされ、横転しながらも立ち上がった。 横には自分が吹き飛ばされたのに何食わぬ顔をしている時雨、目の前には、頬に陰炎が突き刺さったテオ・テスカトル。 痛みで口が閉じれないのか、血と唾液が混じった液体が流れ落ちている。 「とりあえずこれを使えよ」 そう言って時雨は、抜き取った狐火を桜火に渡す。 「言っておくが、アイツは俺の獲物だからな」 そう言って桜火はテオ・テスカトルに刃の先端を向ける。 テオ・テスカトルは桜火を睨み、小さく唸っている。 「仕方ないから譲ってやるよ、のかわり貸しはチャラな・・・」 時雨はそう言い捨て、自分の武器を取りに走り出す。 クシャルダオラはテオ・テスカトルか目の前の二人のハンターか、どちらを先に仕留めるか迷っていた。 その間に時雨は落ちていた両刃槍を拾い、迷っているクシャルダオラの顔に一閃。 「グシャォ!?」 クシャルダオラは突然の斬撃に驚き、時雨を睨みつける。 「オラ、こっちだぞ」 そう言って時雨は噴水より南の方にクシャルダオラを誘き寄せる―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ |